三都杯決勝大会。
ステージを終えたamanda・木下大輔さんは、自分の戦いを静かに振り返る。
大会が終わり、改めて自分の姿や作品を見返してみる。
そうすると、本番の最中には気づくことができなかったものも見えてきた。
「見えていなかった部分はいろいろあったなとは思うけど」
それでも、木下さんの言葉に大きな後悔はない。
「それでも今できることは自分の中で」
やり切った。
その実感があるからこそ、
「後悔はないですかね」
と語る。

結果を受け止めながらも、自分がその場所で何をしようとしたのかを見失わない。
三都杯を終えた木下さんの表情には、次へと進む人の清々しさがあった。
「木を見て森を見ず」だったかもしれない
大会後に振り返ることで見えてきた、自分自身の課題。
木下さんはそれを、
「木を見て森を見ずという感じ」
と表現する。
一つの部分を突き詰めるあまり、作品全体を俯瞰して見ることができていなかったのかもしれない。
コンテストでは、カットの技術だけではなく、モデルさん、ヘア、衣装、ステージ、そして全体から伝わる空気までがひとつの作品になる。
細部へのこだわりと、全体を見る視点。その両方が求められる。
けれど木下さんは、自分が集中した場所について、
「でも、自分の戦うところはそこであったと思うので」
と話す。
結果を見て、自分の選択を否定するのではない。あの瞬間、自分が戦うべきだと思った場所で戦った。
だからこそ、「清々しく負けたなって感じがします」と受け止めることができる。
負けたことを悔やむだけではなく、そこから次に必要なものを見つけていく。
その姿勢もまた、木下さんがこれまで挑戦を続けてきた理由のひとつなのかもしれない。
自分の力で、何かを生み出す
木下さんが三都杯という舞台に感じている魅力。それは、普段の仕事だけではなかなか得られない経験にある。
自分でテーマを考え、モデルさんと向き合い、技術を使い、ひとつのデザインをゼロからつくり上げていく。
「そういう機会ってなかったですし」
そして、「それを自分の力で生み出して」作品として人前に出す。
その過程そのものが、
「自分にとっては、すごく魅力的な部分だった」
と木下さんは語る。

コンテストだからこそ、自分自身の内側にあるものまで掘り下げることになる。
これまで何を見てきたのか。
何に心を動かされてきたのか。
何を美しいと思うのか。
何を表現したいのか。
そうして、自分のこれまでの思いやエネルギーを作品へ注ぎ込んでいく。
つくれば、また次につくりたいものが出てくる。ひとつの作品を完成させれば、それで終わりではない。
むしろ、つくったからこそ次が見えてくる。
木下さんは、
「次から次へと、次はこれしたいというのが出てくる」
と話す。
もっとこうしたかった。
次はこんなものをつくってみたい。
今度は別の方法で表現してみたい。
作品をつくることで生まれた問いが、また次のクリエイションへつながっていく。
完成するたびに、新しいスタート地点が生まれる。
それが、木下さんにとってのクリエイションなのだろう。
三都杯という舞台は、単に一つの作品を完成させる場所ではない。美容師としての創作意欲を、さらに先へ押し進めてくれる場所でもある。
関西のエネルギーを、もっと熱く
これからの挑戦について聞かれた木下さんは、自分自身だけではなく、関西の美容師について語る。
「関西の美容師として活躍していきたい」
そして、
「もっと、関西の美容師で、骨のあるやつが出てきてほしい」
自分ひとりが評価されればいいという話ではない。自分が挑戦する姿を見せることで、それを見た誰かが動き出す。
「きっかけになればいいなと思っているので」
挑戦する人が増えれば、そこで新しいデザインが生まれる。競い合う人が増えれば、さらに新しい刺激が生まれる。
そうした循環によって、
「関西のエネルギーをホットにできるように」
木下さんは、これからも挑戦を続けようとしている。

美容師として生きていくなら、一度は挑戦してほしい
インタビューの終盤、木下さんは、まだコンテストに挑戦していない美容師さんたちへ語りかける。
「チャレンジしてない人が、圧倒的に多いとは思うので」
もちろん、コンテストだけが美容師の価値を決めるものではない。
サロンワークにはサロンワークの価値があり、それぞれの美容師さんに、それぞれの仕事の形がある。
それでも、「一生、美容師としてやっていく覚悟を決めたんだったら」
一度くらい、挑戦してみてもいいのではないか。
木下さんはそう考えている。
コンテストの作品を見て、「普段、作っている髪型と関係ない」と思う人もいるかもしれない。
けれど、木下さんが大切にしているのは、完成した髪型がそのままサロンワークで使えるかどうかだけではない。

ひとりの人を可愛くするために、どこまで向き合えるか
木下さんの言葉で印象的なのは、
「ひとりの人を可愛くするために」
という考え方だ。
コンテストに向けて、何度も考える。
思うようにいかず、苦しむ。
それでもモデルさんと向き合い、どうしたらもっと魅力的になるのかを考え続ける。
「そこまで頑張って苦しんで生み出したことはあるか」
普段のサロンワークと、ステージ上の作品。
出来上がるデザインはまったく違って見えるかもしれない。けれど、その根本にあるものは同じなのではないか。
目の前のひとりを、もっと素敵にしたい。
もっと可愛くしたい。
そのために考え、技術を磨き、試行錯誤する。
コンテストへの挑戦は、その思いを極限まで突き詰める経験でもある。
「人生が変わるきっかけになるかもしれない」
だからこそ木下さんは、
「一回はチャレンジしてほしい」
と語る。
簡単なことではない。
時間も使う。
悩むこともある。
結果が出ないこともある。
けれど、一度本気で取り組んでみる。自分がどこまでできるのか、徹底的に向き合ってみる。
その経験によって、「人生が変わるきっかけになるかもしれないじゃないですか」と木下さんは言う。
それは、これまで自身が挑戦を続けてきたからこそ出てくる言葉でもある。
「自分は、それしかしてきてないから」
だから、
「それをしてきた側としてはそう思います」
挑戦することが、必ずしもすぐに結果につながるとは限らない。
けれど、本気で何かと向き合った経験は、自分自身のなかに残る。
見えなかったものが見えるようになる。
新しくつくりたいものが生まれる。
そして、次に進む理由になる。
三都杯を終えた木下大輔さんが語った「清々しく負けた」という言葉。
そこにあるのは、結果を軽く考えているからではない。
自分の力を出し、自分の戦う場所で戦ったからこそ、次を見ることができるということ。
挑戦した先で何が変わるのか。その答えは、挑戦した人にしかわからない。
だから木下さんは、次の美容師さんたちへ伝える。
一度、やってみてほしい。
その一歩が、自分自身の美容師人生を変えるきっかけになるかもしれないから。
